メランコリック・ウォール
第46章 地植え
アパートに到着する頃、ぱらぱらと雨が降ってきた。
握られた手にぎゅっと力が込められると、「俺がいるから。」と彼は言った。
翌朝目を覚まし、なんだか急に現実に襲われる。
半ば強引に出てきてしまった。
良い年して、何をしてるんだろう…――
オサムの言葉がよみがえり、ずっしりと肩にのしかかった。
「おはよ」
寝ぼけ眼で彼が微笑んだ。
「あ、おはよう…」
「俺仕事行くけど、アキはここにいて。雨だから午後…早めに帰れると思う。」
「ん、分かった…ありがとう。」
やがて私にキスをすると、キョウちゃんは仕事へ出かけていった。
昨夜から降り続く雨の音だけが部屋に響いている。
これから、どうしようか―――。
確信的な出来事はなにもないまま、数日が過ぎた。
オサムからは何の連絡もないが、義父からは慣れないメッセージで「帰ってきてほしい」「心配している」といくつか届いている。
私は一体誰と結婚したのだろう。
その日、キョウちゃんは帰ってくるとすぐに言った。
「親父がまた、調子よくないみたいで。」
「えっ?大丈夫なの?」
「今日マサエさんが電話よこしてさ、大丈夫~!とは言ってたけど…」
「心配だね…。一度、九州に行こうか?」
「そうだな…。」
来週末に九州へ行く約束をすると、キョウちゃんはシャワーを浴びに行った。
遠くにいるお父様とマサエさんの顔が浮かび、懐かしくなる。
あの場所は私を優しく受け入れてくれた、そんな気がしている。
「あのさ、キョウちゃん」
「んー?」
バスタオルで髪を乱暴に拭くキョウちゃんに言った。
「お父様のそばで…九州で、暮らすっていうのは…どうかな?」
彼は驚いた顔で私を見た。
「――それは…アキも一緒に?ってこと…だよな?」
「う、うん……図々しいよね、ごめん。」
「いや…そうじゃなくて。本当にいいのか?」
「え?」
それからキョウちゃんは、実は九州に帰ることも考えていたと教えてくれた。
「アキのことが落ち着いたら、ゆくゆくは言ってみようか…って思ってたんだ。まさかアキから言われるとは…。」