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メランコリック・ウォール

第47章 Red Line


先月の誕生日、キョウちゃんが手配してくれた宿で素敵な夜を過ごした。

その頃すでに、生理が来ていないことには気付いていた。


私は33歳で、初めての妊娠をしたのだ。


オサムとの離婚が成立し、キョウちゃんとの未来へ歩みだしていたのなら手放しで喜んだだろう…――。


離婚は、成立していない。

だが、いま目の前にしている現実は、愛し合った日々を思えば当然にも思える。


どうしよう、まずどうしたらいいだろう。
頭が追いつかない。


今日はお父様の通院のためキョウちゃんが送り迎えをしていて、家には私しかいない。


とにかく…、と、私は義父へ電話をかけた。


感じたことのない焦りが、みるみる押し寄せてくるのが分かった。


「もしもし、アキちゃん?」

「今いいですか?」

「もちろん。」


私からの電話はめずらしく、義父も少しばかり驚いている。


「あの…。オサムさん、離婚届…書いてくれたでしょうか?」

「ああ…ダメだね。全然聞かないんだよ。」

「そう…ですか。」


右手に握られた妊娠検査薬を見つめる。


「もう自由にしてやれってね、俺も言ってるんだよ。ここまで来たらさすがに俺だって、アキちゃんに無理言えないしな…。」


ウォールシイナを出てから4ヶ月が経ち、義父も諦めがついたようで、最近は帰ってこいと催促する事もなくなっていた。

そしてオサムとの生活に疲弊している様子もあった。


「お義父さん…。」

「ん?」


「私…、森山さんの子供を妊娠しました。」



―――…


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