メランコリック・ウォール
第48章 ウォールシイナ
何分待っても進展がないので、義父が重い口をひらいた。
それでもオサムは黙っていた。
聞き分けのない子供のようだが、40を過ぎた中年のその姿は情けなくもある。
…
結局、午後4時を過ぎ、日も落ちてきてしまった。
「アキちゃん、今日は?」
「空港近くのホテルを取ってます。朝一番で九州に戻ります」
「そうか…。送っていくからね。」
断ろうと思ったが、到着したときと同様、義父は折れないと悟った。
「ありがとうございます…すみません。」
また、私と義父はオサムに目をやった。
九州に戻ると聞いても、何も言わなかった。
「本当は…今日、判を押してほしかった。」
「…。」
「なにか言ってくれない?」
「……お前は…」
久しぶりにオサムの声が聞こえた。
「お前はっ…俺と一緒になって、この会社を支えていくって誓って、嫁に来たんだろう」
「…はい。」
「それをどうして簡単に、他へやれるんだよ…?!」
「私はっ…モノじゃない。」
「揚げ足を取るな!お前、自分の誓いはどうしたんだ。ちょっと浮気されたくらいでここまでするなんて、どうかしてる!」
「ちがっ…――」
「オサム。それは違う。」
私の言葉を遮るようにして義父が低く言った。
親父は黙っていろとオサムが喚いたが、義父も引き下がらなかった。
「俺だってな、最初はそう思ったよ。お前が浮気したから、こうなったってな。」
「だってそうじゃねえか。」
「違うんだよ。いい加減、よく考えろオサム。アキちゃんはお前の浮気なんてどうでも良かったんだよ…。」
「…あぁ?」
「もっと前から、2人の関係は崩壊していただろう?思い返してみろ。夫婦として、家族として、うまくいってたか?」
「…。」
「それでもな、アキちゃんは10年以上、うちを支えてくれてたんだ。当たりの強いお前と、都合の悪いことは見て見ぬふりをしてきた俺との間でな…。」
「…。」
「…。」