メランコリック・ウォール
第7章 首筋の汗
「ふぅ……」
これからまた30分以上も電車に揺られるのか。
疲れた…。
うとうとしつつも最寄り駅が近づき、なんとかまぶたをひろげる。
「…?」
外は雨が降っているようだった。
あちゃー…最悪だ。
ホームに降り立つと、やはりあたりは土砂降りで、私は呆気にとられた。
ひとまず改札を出ると、タクシー乗り場には長蛇の列が出来ている。
大切な書類やカメラもあるので、出来れば私もタクシーを使いたかった。
けれど、重い荷物を持ちパンプスを履いて歩いた疲労もかなりきている…。
私はとても嫌だったけれど、オサムに電話をかけることにした。
ーーー何度もコールが鳴るが、出ない。
仕方ないので事務所にかけると、電話口にはゆりちゃんが出たのだった。
「お電話ありがとうございます。ウォールシイナでございますー」
「あれ?ゆりちゃん?」
「わぁ、アキさん!今どこですか?大丈夫ですか?!」
「今、駅なの。それよりゆりちゃん、なんで事務所に?こんな時間なのに」
「税理士さんの作業がちょっと遅くなっちゃって…ってそんなことより、なんかあったんですか?!」
「えっと…いま駅に着いたんだけどね。雨がすごいじゃない?それで、タクシーもすごい列なの。…主人いるかな?」
「オサムさんなら、町内会の寄り合いで飲みに行くって、出かけました…社長、奥にいます。呼んだほうがいいですね?」
「えぇ…」
よりによってオサムは不在。
社長である義父に頼むのもなんだか気が引けるが、仕方ないか…。
そう考えたとき、電話の向こうでカラカラと戸の開く音がした。
「あっ、森山さん!どうしたんですか?」
あちらでは、”明日は現場に直行だから必要なカギを取りに来た”という内容の会話が聞こえる。
”今、アキさんが……ーー”
”俺…ーー”
途切れ途切れに、私の状況を説明しているであろう声が耳に届く。
「ゆりちゃん、私大丈夫だから…ー」