メランコリック・ウォール
第7章 首筋の汗
「アキさん、ダメです!森山さんが迎えに行ってくれるって言うので、ここは甘えましょう!」
「でも…」
バタン、がちゃん、と慌ただしい音が聞こえてくる。
「とにかく、すぐ行ってもらいますんで。駅のロータリーで待っててくださいね!雨宿りしながら!それじゃ切りますよぉ!」
騒がしいまま電話は切れてしまった。
ーーー数分後、スマホにメッセージが届いた。
[どっちがわにいる?]
森山さんからだ…。
[すみません。北口です]
返事を送ると、初めてのメッセージになんだか少しそわそわした。
15分ほど経つと、ロータリーに大きな四駆が入ってきた。
運転席から飛び出してきた森山さんは、すぐさま荷物を後部座席へ乗せてくれる。
「森山さん、ごめんなさい。迷惑かけちゃって…」
ザーザーと大きな雨音の中で、彼の「いいから、乗って」という声が聞こえた。
ーーー
「ありがとう…」
「全然。たまたま行って良かった、明日のカギ忘れててさ。」
「助かったぁ…。すごい雨。ゆりちゃん、大丈夫かな?」
「ん。早くアキさん迎えに行けってうるさかったけど、ついでに送ってきた」
ゆりちゃんは会社から徒歩10分の場所に住んでいて、いつも歩いて出社している。
「そっか、良かったぁ。…ふぅ……」
足が痛い。
眠りたい。
初めて乗る森山さんの車、運転する彼の姿…
もっと噛み締めたいけれど、まぶたがそれを許さない。
…
一瞬意識が飛んだかと思った瞬間、車はコンビニに停まった。
「すぐ戻るから。なんか要る?」
「ううん、大丈夫」
少しの間、今度は素直に目をとじた。
雨の音がなんだか心地良い…。
…ガチャ…ーー
ドアが開き、森山さんが乗り込んでくる。
すぐに目をあけると「いいよ、寝てな」と優しい声で言う。
なんだろう…疲れているからかな…。
つい甘えたくなってしまう。