メランコリック・ウォール
第7章 首筋の汗
「他に?うーん……。今日、すごく疲れた。」
「うん?」
「1人で行くことになっちゃって、荷物重いし、汗かくし、」
「うん」
「足痛いし、雨は降るし、主人はいないし、…」
自分でも驚くほど、するすると言葉が出てくる。
そして口にすればするほど、なんだかスッキリしてくる。
森山さんは何度も相槌を打ち、静かに聞いていた。
「でも、…森山さんが来てくれて嬉しかった…。ハイ、おしまい!」
なんだか照れくさくなって私はおちゃらけた。
「ん…アキさん普段なんにも小言いわないから。そんなん聞けてなんかレアだわ」
「森山さんが言えって言ったんでしょ、もうー。」
「ふふっ。うん。…じゃ、俺も言っていい?」
車は、前に森山さんと別れた自販機のそばに停められた。
ここからぼんやりと事務所も見える。
「うん、もちろん。」
なにか仕事の愚痴でも言うのだと思った。
「仕事しんどいのに、これからどんどん暑くなるし萎える。」
「うんうん」
「アキさんはなかなか電話くれないし。」
「…ふふっ。」
「でも今日はラッキー。」
「…?う、うん?」
「……同情だけで優しくなんてしない。」
とっさに森山さんを見ると、彼も私を見た。
「アキさん。俺のことぶん殴って」
ーーーー森山さんの指が、私のあごに添えられた。
ゆっくりと顔が近づく。
「ねぇ、アキさん…早く」
「森山さ…ん…」
息が上がる。思考が停止する。ーーー
唇が触れ合ったその瞬間、脳みそが溶けてしまうほどの感覚に陥った。
「…っん……ぁ……」
絡む舌はほのかにコーヒーの味がした。
私の口元に添えられていた森山さんの指は、首へ…耳へ…するりと肌をすべってゆく。
熱くてなめらかな彼の舌は、いとも簡単に私を脱力させた。
ゆっくりと唇を離すと、今度は首にキスをして…ぺろりと吸い上げられる。
「あっ…、汗…かいたから…だめ、んんぅ…」
全身がぴくり、ぴくりと反応してしまう。
彼はそれを聞くといっそう熱がこもったように私の鎖骨を大きく舐め上げて、強く吸った。