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メランコリック・ウォール

第7章 首筋の汗


「はぁ……ン…ーッ」


荒くなる吐息と共に、声が漏れてしまう…。


「ね、森山さ…っん…ほんとに……だめ」


彼は首元から唇を離すと、もう一度優しく口づけた。



「…アキさんって汗、甘いんだね」


「な、な…なにそれっ」


恥ずかしくてたまらない。



「アキさん、ぶん殴ってくれないから。」


「だ、だって…」


「俺も男なんでね…。ああいう時は逃げなきゃダメだよ」


「誰が言ってるの?!」


森山さんは少し笑いながら、はだけた私のスカートを直してくれる。


煙草に火を付け、深呼吸するように長い煙を吐く。



「俺、自分がちゃんと理性あるタイプだと思ってた」


「……」


「アキさん…?」


「あの、…わ、わたしそろそろ。行かなきゃ…」


ドアに手をかけながら言うと、彼は切なげな表情で言った。



「アキさん…。ごめん。もうしない」


「それは…あの…」


なんと伝えれば良いのか分からない。


なんてポンコツなんだろう。



「とにかく、今日はもう帰るね。お迎え本当にありがとう…」


「ん…。」



後部座席から荷物をおろし、”じゃあ”と別れた。


振り向けなかった。


混乱していても確かに分かるのは…森山さんとのキスが嫌じゃなかった事。


もっともっと求めてしまいそうで怖い。


そして、最後にうまく答えられなかったのが悔しい。


嫌じゃ、なかったのに…ーーー


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事務所の扉から中に入る。


義父は自分で夕食を済ませたのだろう、奥の居間には誰もいない。


自室へ向かう途中、義父の部屋のふすまが開いた。


「おお、おかえりアキちゃん。遅くまで大変だったな。」


「えぇ、大丈夫です…」


なにも変わった様子はない。


森山さんが迎えに来てくれたことすら知らないのかもしれない。


自室に入るとベッドに座り、スマホをひらいてゆりちゃんへメッセージを送る。



[無事帰ってこれたよ、ゆりちゃんも遅くまでお疲れ様でした。また明日ね] 



…ーーーメッセージフォルダに”森山キョウヘイ”という文字が浮き上がって見える。

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