メランコリック・ウォール
第8章 同意の上の
10時が近くなり、私とゆりちゃんはお菓子なんかをお盆に乗せて外へ出た。
「倉庫、めっちゃ古いから…綺麗になるの楽しみですねぇ!」
「うんうん。どんなふうになるかワクワクだね~」
10メートルほど先にある倉庫の前には、深緑色の塗料の缶をいくつも運び出している2人がいた。
「お茶にしましょう~」
声をかけると、2人は汗を拭いながら作業を中断する。
「おっ。ありがてえ。おい森山、あれ出してやれ、あの…ーー」
親方と森山さんは作業着のまま地べたにあぐらをかき、私とゆりちゃんにはアウトドア用の椅子を出してくれた。
「わぁ、こんなのあったんだ。知らなかった(笑)」
冷たい麦茶をコップに注ぐと、2人はゴクゴクとそれを飲み干した。
森山さんの額に光る汗がとても色っぽくて、ドキッとしてしまう。
「どうぞ、お菓子も食べてくださいね。」
みんなでお日様の下、こうして過ごす時間がとても楽しい。
オサムとも義父とも、こんなに良い時間を過ごした記憶がない。それほど家庭内の関係は閑散としている。
「壁の色、これにするんですね」
深緑色の一斗缶を指差し言うと、親方はフタをあけて見せてくれた。
「どうだ?」
「素敵な色です~!」
覗き込んだゆりちゃんがはしゃぎ、私もわぁ、と声を出した。
「昼は蕎麦でも取るか。それじゃ、そろそろ」
また作業を再開するため、私とゆりちゃんはお盆を持って事務所へ戻る。
ふと振り返ると森山さんと目が合い、お互いそっと片手をあげて”それじゃあね”と無言の挨拶を交わした。
「もうすぐ月の宮旅館での飲み会ですね、アキさん!楽しみだなぁ~~」
月の宮旅館は、ここから車で20分ほどの場所にある。
このあたりでは誰もが知る古い旅館で、仕事関係の忘年会や新年会などで年に数回利用する。
「楽しみだね、この時期に行くのって珍しいし。」
「そうですねえ!…でも、今回は親方の孫も来るんですよね…はあ」
「あ~…桜子ちゃん、来るって言ってたねぇ。」