メランコリック・ウォール
第9章 見つかった痕
もぞもぞと寝返りを打ってスマホを確認すると、森山さんからのメッセージだった。
私がこんなふうに思いを巡らせているなんて彼には知る由もないはずだが、メールの文面には
[アキさん。会いたい。]
と書かれている。
なにか壊してはいけないものを壊してしまいそうな気がして、怖くなる。
何なら、遊んでいるたくさんの女のうちの1人であるほうが気が楽なのかもしれない…。
それでも私にはどうしても、彼がそんな人だとは思えないのだった。
”急にどうしたの”
”酔ってるの?”
…様々な文を打ち込んでみるが、結局やめてしまった。
[私も会いたいです]
ほんの数時間前に共に過ごしていた者同士とは思えない会話だけれど、私はそう返信した。
…
翌日からも皆の前では平然を装い、隙があれば口づけを交わした。
鎖骨あたりの赤い痕は、途絶えることがなかった。
”もうこんな事やめよう”
その一言が言えないまま…自分の欲望に従うだけだった。
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旅館での飲み会の日がやってくると、その日は早めに業務が終わる。
「あぁ~終わった~!温泉♪懐石料理♪楽しみです~!」
ゆりちゃんはウキウキした様子で言う。
オサムと義父は、大工の棟梁夫妻を迎えに行くらしかった。
「じゃあゆりちゃん、行こっか!」
私は久しぶりに自分の車を出し、ゆりちゃんを乗せると走り出した。
旅館の駐車場に着くと、館内への入口には
「歓迎 ●●地区 建築協会様」
と書かれた大きな札が掲げてある。
「今日は40人近いので、月の宮さんも気合い入ってますね(笑)」
「ね(笑)いつもはあんな札、ないもんね~」
笑いながら車を降りて入り口へ向かっていると、よく知っている大きな四駆が入ってきた。
「あっ、森山さんだ。親方も乗せてきたんですね」
「そうみたいね。」
言ってから、2人で顔を見合わせる。
「「ってことは…」」