メランコリック・ウォール
第9章 見つかった痕
ーーー案の定、森山さんの車の後部座席には桜子ちゃんが乗っていた。
森山さんは入口で親方と桜子ちゃんをおろすと、私たちの方へ車を走らせてきた。
片手を上げて挨拶する彼に、私たちも手を振って答えた。
「やっぱり乗ってましたね…」
再び歩き始めると、親方と桜子ちゃんが私たちに気づき、こちらでも挨拶を交わす。
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チェックインを済ませ、私とゆりちゃんは同じ部屋なのでエレベーターに乗った。
「アキさん、早速お風呂いきましょ~!」
宴会は皆浴衣で参加するのが恒例だ。
「そだね!行こう行こう」
大浴場の脱衣所で服を脱ぎ、中へ入ると石づくりの大きな浴槽からゆらゆらと湯気が立ち上っている。
「やっぱり、大きいお風呂は良いですねえ♪」
振り返って話しかけるゆりちゃんが、ハッと目を丸くした。
「…?。どしたの?」
「アキさん、もしかして…何だかんだ言ってオサムさんとうまくやってるんですね?ふふふ」
「えぇ?突然なに言うの~?」
わけも分からず笑っていると、ゆりちゃんは私の胸元に目をやり言う。
「だって、キスマーク!(笑)」
ーーーしまった。
完全に油断していた。
「あっ…これは…っ」
隠しても、もう遅かった。
「んもう、アキさんったら。恥ずかしがらないで下さい、私たちの仲じゃないですか~」
クスクスと笑うゆりちゃんに、私はとっさに口走った。
「お願い、誰にも言わないで…っ!」
ただならぬ空気を感じたのか、ゆりちゃんの顔から一瞬笑みが消えた。
「アキさん…?」
「あ、えっと…は、恥ずかしいからさ!」
「まさか、言わないですよお。私がそんな奴だと思ってるんですかあ?!」
なんとかまた明るいムードに戻ると、私たちはひとまず温泉を堪能した。
「なんだか、見る目変わりました。オサムさんも、やるときゃやりますね~」
感心するようにゆりちゃんが言う。
”外面では分からなくても、実はオサムと仲睦まじいんだ…”と思われることが、すごくすごく嫌だった。
「もし…」
「え?」