メランコリック・ウォール
第9章 見つかった痕
「もし、主人が付けたんじゃなかったら…ビックリだよね(笑)」
どうしてこんなこと言ってしまったのだろう。
ゆりちゃんが困惑の表情で私を見ている。
「…なんてね?冗談。ふふっ、驚いた?」
ごまかすように言うが、ゆりちゃんは何かを考えるように黙ってしまった。
「アキさん…。隠し事しないでなんて言いません。でも…ちょっとさみしいです。えへへ…」
ゆりちゃんがうちに勤め出して、もうそろそろ5年が経つだろうか。
ずっと私に懐いてくれていて、仕事も一緒に頑張ってきた。
飲みに行ったり、お泊りだってするほど仲良くなった。
いつも私の負担を減らそうとあれこれ気にかけてくれる、唯一の存在だ。
「ゆりちゃん……ごめんね」
「良いんです。言えるようになったらで。」
「うん…」
「…ふふっ。アキさんも隅に置けませんねえ!」
いつもの調子に戻ったゆりちゃんが明るくそう投げかける。
わいわいと浴場を後にすると、脱衣所で桜子ちゃんが洋服を脱いでいるところだった。
2、3言葉を交わし、浴場へ向かう彼女を見送ると私たちは髪を乾かし簡単に化粧をした。
「若いっていいなぁ…」
私がつぶやくと、ゆりちゃんは吹き出した。
「なんですか、おじさんみたいなこと言って(笑)」
「だって~。桜子ちゃん、すごいスタイル良いから…目のやり場に困っちゃったよ。」
「ま、たしかにモデル体型ですよね。だからといって、褒めませんけど私は!あはは」
事実、桜子ちゃんはスラッと高身長でスリムなのに胸もある。モテるだろうなぁ。
…
一旦部屋に戻り、風呂上がりの体を冷ましながら一息つく。
森山さんはどうしているだろうか…。
「アキさん、そろそろ行きましょっか」
私たちは宴会がひらかれる大広間へ向かった。
ぞくぞくと人が集まる中、なるべく目立たない隅の方へ並んで座った。
「はぁ、お腹空いてきた~!♪」
ごきげんに言うゆりちゃんは、今…私に対して、どう思っているんだろう。