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メランコリック・ウォール

第2章 触れた手


明日の現場について森山さんに渡す書類をまとめると、私は彼の座るソファへ向かい、隣にしゃがんだ。


「森山さん、明日の現場ね…」

「はい」


彼は湯飲みを置き、こちらへ目をやる。


「えっと…えーっと…あれ?」


何枚もある紙切れを膝の上でめくりながら、目当ての書類を探す。



「んんー…っと…。ご、ごめんなさい、あれぇ…」


なんだか申し訳なくなり、私は更に焦る。



一度デスクへ戻って出直そうと考えた時、不意に森山さんは私の手を包み込むように添えた。




「これじゃないスか?」



大きくてゴツゴツとした見た目のその手はとても暖かく、思ったよりもふわりと優しい感触だった…。



「っ……」



一瞬、頭皮の毛穴がすべて開くような冷や汗を感じる。



「あっ、あのっ、そう!そうこれっ…ははは、ありがとうっ…」



動揺を隠すつもりで放った言葉たちが、彼に通用したのかは分からない。








その夜、布団に入ると、ふと森山さんの手の温もりを思い出した。


そういえば、男の人と触れ合ったり…ときめいたり、最後にしたのはいつだっただろう。



「いやいやっ、これはトキメキじゃないって!突然で、びっくりしただけ…!」



とっさに独り言を漏らす。



思えばいつのまにか夫婦の会話は少なくなり、するとしたら仕事の話ばかり。


寝室は別で、毎晩義父と旦那に食事やつまみを作り終えるとこうして自室にこもるのだった。





私は強引にゆりちゃんの事を考えた。


三歳下のゆりちゃんは童顔で、黒髪で、なんだか幼気の残る元気な子だ。



親方や森山さんの笑顔を引き出すのも上手で、すっかりうちのムードメーカー。


実際、ゆりちゃんに笑いかける森山さんを見たことが何度もある。




三十路を超えた人妻の私が、出しゃばるなんて…とんでもない。



変なことを考えてしまう前に、私は眠りについた。



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