メランコリック・ウォール
第2章 触れた手
お花見当日、私は朝早くからゆりちゃんとお弁当を作っていた。
「アキさん、本当マメですよね〜…私ならお店でオードブル頼んじゃう。」
可愛らしいショートヘアにつく少しの寝癖を揺らして、彼女はボヤいた。
「あはは。でもお料理って楽しいじゃない?こんなにたくさん作ることって普段ないし」
「……もしかして私、料理がうまくないから彼氏できないのかなあ?」
「なーに言ってるの。ゆりちゃん…実はモテるでしょう?私には分かる」
「男の気配がゼロの私に…もしかして嫌味ですか?」
「ちがうって(笑)ねぇ、韓流スターのような人はなかなかいないと思うよ?」
「うわぁ、ハッキリ言いますね…!泣きますよ(笑)」
ケラケラと笑い合いながらもお弁当作りは進み、完成間近でお義父さんが二階から降りてきた。
「おはようさん」
「「おはようございまーす!」」
「良い匂いすんなぁ。…あれ、もう8時か。オサムは?」
「降りてきてないです。まだ寝てるのかも」
最後の仕上げを終え、私とゆりちゃんは温かい梅コブ茶で一息ついた。
すぐに夫であるオサムも降りてきて、花見の支度を始めた。
「よし、これでOKだね!」
「あ〜、お腹すいたあ!早くアキさんのお弁当たべた〜い!」
「ゆりちゃんだって作ってくれたじゃない(笑)」
カラカラカラッ…ーー
昔ながらの小気味良い音を立てて、事務所の引き戸が開き、森山さんがぺこっとお辞儀しながら中へ入ってくる。
「親方、車にいるんで。持ってくモンあれば」
「あ、じゃあこれを…」
風呂敷に包んだ重箱を手渡すと、一瞬手と手が触れた。
こないだよりも少し冷えた彼の指先が掠る。
「あっ…」
つい声が出てしまい、森山さんが私を見た。
頬が熱くなっていくのを感じ、サッと手を引く。
「…他にもあります?」
「えっ…と…いや、それだけかな?あと、外にレジャーシートが…--」
まったく、バカみたいだ。
こんな…ほんのささいな事でドキドキしてしまうなんて。
でもこれは、相手が森山さんだからじゃない…。
免疫がない私には、男の人の手が触れただけでも刺激が強いからだ。