メランコリック・ウォール
第10章 キスの理由
すぐに小走りで森山さんが現れた。
「ねぇ」
「…ごめん、…1人かと思って、声かけちゃった」
「あの子とはなにもない」
「どうしてわざわざそんなこと言いに来るの…っ」
「…」
「私には関係ない…。桜子ちゃん、待ってるよ」
「んなのどうでもいい」
「行ってよ…っーー。お願い、行って…」
「行かない」
森山さんがグッと強く私の手首を掴み、向きを変えられる。
「………っ」
「言いたいこと言って」
「わ、私は…」
「うん」
「桜子ちゃんみたいに、背も高くないし…」
「…はっ?」
「若くも可愛くもない」
「何言ってんの?」
「2人の関係に口出す権利ないし」
「関係も何も、なんもねえよ」
「…」
「確かにアキさんはチビだし、32歳だけど」
「ぅう…」
「俺はアキさんしか見えない」
「………んっ…ー」
浴衣越しの熱が混じり合う。
大きな体で包み込まれると、彼は探るように優しいキスをした。
「んはぁ……ん…っ…」
近くにはみんながいる宴会場。
それに、桜子ちゃんが追ってくるかもしれない。
分かっていても彼を離せなかった…ーー。
やがて唇を離すと、森山さんは私の目をじっと見た。
「…ねえアキさん。」
「はい…」
「アキさんのこと好き。」
「…えっ…と」
「俺が今までどういうつもりでキスとかしてたと思ってんの?」
「それは…分からない…」
「分かんないの?…好きでもないのにしてたと思ってた?」
「かもしれない、って…」
「………ムカつく。」
「…んっう!」
森山さんはもう一度私に口づけ、そして優しく噛み付いた。
「アキさんはそうなの?」
「え…?」
「俺のこと何とも思ってないのに、しょうがなく付き合ってくれてたの」