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メランコリック・ウォール

第11章 金魚


「まぁとにかく無事で良かったです!二次会どうします?いつもの”金魚”です(笑)」


この旅館には、併設している”金魚”というスナックがある。


スナックと言ってもホステスは少なく、客の相手をするのはほとんどが延長で呼ばれたコンパニオンだ。


広いフロアは薄暗く、真ん中には大きなミラーボールとカラオケステージがあり、今の時代とは思えないレトロさがある。



「どうしよっか?」


ゆりちゃんに問いかけながら、後ろでは桜子ちゃんが森山さんを二次会に誘う甘ったるい声が聞こえる。


「私はもう少し飲みたいです♪アキさんが良ければ…」


「じゃあ、行こっか♪私ももう少し飲みたい!」


なんだか開放的な気持ちになるのは、お酒のせいだろうか。


結局みんなで金魚へ向かうことになり、廊下へ出る。

一緒に向かうおじさんたちとワイワイ歩く中、私が食べていたアイスを見て森山さんが言った。


「最後ちょうだい」


「え、でもこんなに食べちゃったよ」


「いい」


目立たないように渡すと、彼は棒についたイチゴアイスをがぶりと食べた。


そして自販機の横にあるゴミ箱へポイと捨てる。
幸い、桜子ちゃんには見つからなかった。


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「うわぁ、なにここ!おもしろーい(笑)」


初めて来た桜子ちゃんがハシャいでいる。



「アキさん…あっち座りましょ!」

桜子ちゃんと離れたいゆりちゃんが私の耳元で言う。


ベロアの低い椅子で囲まれたボックス席で、更にその回りには衝立(ついたて)がある。


死角になりやすく目立たないその席が、ひっそりと飲むには最適のポジションなのを私たちは知っていた。


「うん、そうしよう」




…ーーしかし、ゆりちゃんの思いは虚しく散った。


森山さんが私たちについてきたので、桜子ちゃんも来てしまったのだった。


「はぁ~っ…」


「まあまあ、ゆりちゃん。テーブルは違うし、これだけうるさければ近くにいても何も聞こえないよ」


フロア中央のカラオケステージでは、早くもおじさんたちがコンパニオンを隣に置き、歌を楽しんでいる。


「それもそうですね!」


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