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メランコリック・ウォール

第2章 触れた手


花見会場に着くと、土曜日ということもあり若者や家族連れで賑わっていた。


良い場所はほとんど取られてしまっていたので、私たちは桜から少し離れた小川のわきにレジャーシートを敷いた。



「まっ、結局飲めりゃいいんだからな(笑)」

楽しげに義父が言い、「ちげぇねえ!」と親方も笑った。



早速お弁当を広げ、皆に缶ビールを配る。



「ありがとさん」と言う親方の声にまぎれ、「あざす」と森山さんが言った。




「ゆりちゃんが調べてくれたとおり、桜…満開だね!キレイ。」


にぎやかな会場を縁取るように咲き誇る桜。

あたたかな日差しの下、私はふんわりと漂う春を感じていた。



「アキちゃん、これうめえよ」

親方が箸で筑前煮を指しながら言う。


「ほんとですか?良かった。朝からゆりちゃんが頑張ってくれたんですよ」

「アキさぁん!私は野菜切っただけです(笑)すみません、不格好で…」

「いんや、こんくらいザクッと切ったほうがうめえんだ」



そう言って親方はさらにレンコンを頬張った。


その隣で森山さんもにんじんを口に含み、うんうんと頷いていた。


もう次の会話で盛り上がっている皆は気づいていない様子で、私だけが見た森山さんの優しさに少し心が弾んだ。


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午前中から酒を飲み、ツマミをたらふく食べたあとで、昼頃には親方とオサムは横になって昼寝を始めていた。


「いやぁ、森山くんが来てくれて本当助かってる。俺も、親方もな」


義父が長くなりそうな話を始めると、ゆりちゃんはスマホを取り出して言った。


「アキさん、桜の写真撮りに行きません?映え写真とらなきゃ!」


「ふふっ。行こう行こう」


きゃあきゃあと、ひとしきり騒いで写真を撮った。


「ゆりちゃん、桜をバックに撮ってあげる」


「えぇ、…もしかしてお見合い写真ですか?(笑)」


「はははっ!いいねぇ、それも」


「やめてくださいよぅ~!」


「相手が韓国人だったら?」


「…それはアリです」



大笑いで席に戻ると、早速ゆりちゃんは撮った写真をチェックしている。


まわりで宴をする人たちもよりいっそう盛り上がり、どんちゃん騒ぎをしている大学生たちもいる。



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