メランコリック・ウォール
第12章 願い事は
「はぁ~、いっぱい飲んできました(笑)曽根さんたちの飲ませ方、えげつないです!!」
どさっとソファに座ると、彼女は水を一杯飲んだ。
「ゆりちゃん、平気?そろそろ部屋もどろっか?」
「そうですね。結局アキさんとゆっくり話せてないし!!」
部屋に戻ることになり、途中まで森山さんも一緒だった。
「部屋は、誰と一緒?」
「俺一人」
「そうなのっ?親方は…もしかして」
「孫と一緒(笑)」
私たちはケラケラと笑い、エレベーターを降りたところで別れた。
「さっき、曽根さんがアキさん呼べってうるさかったですよお。受け流しましたけど(笑)」
「ははは…相変わらずだねぇ」
部屋に入り、ひとまず広縁の椅子に座る。
窓からは少しばかりライトアップされた日本庭園が見える。
「私、シャワー浴びようかなぁ。おじさんたちの加齢臭がついてそう(笑)」
「あはは!ごゆっくり」
パタン、と浴室への扉が閉まり、部屋は一瞬で静まり返る。
空白を待たずして、森山さんのことを考えてしまうーーー。
すぐにピコンと携帯が鳴り、見ると森山さんからだ。
[ちょっと出てこない?]
もし、少し2人になれるとするなら…今しかない。
衝動が止まらなかった。
私は森山さんに電話をかけながら、そっと廊下へ出た。
「もしもし」
「あ、あの…」
「今どこ?」
「部屋の外…」
「エレベーターまで来て」
さっきまで一緒だったのに、2人きりで会うとなると何だか緊張した。
目の前まで行くと、なにか言葉を発する前に彼は私の腰を抱き寄せた。
優しい抱擁と、大きな胸板に熱が出そうだ。
エレベーターが動き出す音がして、私たちは急いで廊下を突き進んだ。
「どこにいくの?」
「俺の部屋」
「…っ」
「なんもしないって(笑)」
部屋の前についた瞬間、エレベーターがひらく音がする。
ざわざわと何人もいそうな声の中には、親方やオサムのそれもあった。
刹那、森山さんと見つめ合う…ーーー
この部屋に入ったら、私はきっと本当に森山さんに溺れてしまう。
それでもこの衝動に、どうしても抗えない……
私は差し伸べられた手を握り、皆に見つかるギリギリのところで森山さんの部屋に吸い込まれた。