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メランコリック・ウォール

第13章 ゆりちゃんの秘密


「ごめんね、最初に言えなくて。ゆりちゃんの話聞いてから言うなんて、私もズルいんだ。」


「いえ、それは良いんです…ずっと、誰かに言いたくて。聞いてほしくて。」


「うん。…どのくらい前からなの?」


「もうすぐ半年になります…」


「そう…」


よくよく聞くと、相手はうちの会社の専属である税理士の息子”トモキくん”だった。


彼もまた税理士で、父親の代わりに訪問してくることが数ヶ月に一度ある。



「まさか、トモキくんとゆりちゃんが…はぁ、ビックリ。」


「相手が相手なんで、余計に言えなかったです…。」


「そうだよね、うん…。話してくれて嬉しい。」


「聞いてもらえて嬉しいです。」


現場の帰りに雨が降り、キョウヘイくんに迎えに来てもらったあの夜。


ゆりちゃんが遅くまで会社にいたのは、その日やってきたのがトモキくんだったから。


「あはは、そういう事だったのね!」


「コーヒー入れて、ゆっくり喋っちゃって…。すみません。」


「いいのよ。せっかく会ったんだから」


私は会社でキョウヘイくんとキスをした…とまではさすがに言えない。




ゆりちゃんとはお互いに、未来の話はしなかった。

確実な未来なんてない。

あったとしても、明るいはずがない。


2人ともそう考えているという事は、話さなくても分かった。






「それじゃ、電気消すよ。おやすみ」


「おやすみなさい」


たくさんたくさん話したあと、私たちはやっと眠りについた。



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翌朝、2人そろって二日酔いで目を覚ました。


「お腹すいたぁ…」


「ふふっ。昨日の夜、おつまみナシでたくさん飲んじゃったもんね」


朝食のため大広間へ行くと、そこには多くの人が集まっている。


聞くと、もうすでにチェックアウトした人もいるようだった。


「さすが年寄りは早起きですね」


「しーっ(笑)」


私たちも席について食べ始めるが、キョウヘイくんの姿は無い。


もう、帰ったのかな。
まだ、寝てるのかな…?



「アキさん」


「んー?」


「私、今日から森山さんのこと直視できません」


「ぶっ。なに言うの、いきなり(笑)」


こそっと言うゆりちゃんに、つい吹き出してしまう。


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