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メランコリック・ウォール

第13章 ゆりちゃんの秘密


それから更に1週間が過ぎ、いよいよ大きな現場が今日から始まる。


朝早くから、キョウちゃんと親方は念入りに機材や塗料を確認している。


「これ、今日の書類なんだけど…」


「お、サンキュ」


彼は汗を拭いながら書類を受け取る。


「今日から新しい現場、頑張ってくださいね」


「うっす。頑張ります(笑)」


やがてオサムと義父も一緒に4人は現場へ向かって行った。



「いよいよですねぇ。何事もなく終わればいいですが」


「ほんとね。何だか久しぶりに緊張しちゃうよね」


「ですね(笑)発注先もいつもと違うし…勝手が違って、そのうちミスしそう…」


「だいじょぶ、私もきっと何かやらかすから。そのときは2人で謝ろう(笑)」



8月の暑い日、こうして現場はスタートした。


これから1ヶ月のあいだ、いつも以上に気の抜けない日々が続く。



「そういえば、もうすぐ税理士さんの日だね。」


「えっ?あ、あぁ、そですね…!」


「なにかあったの?」

「いえ、急に言われたので焦っちゃいました。あはは」


「ふふ。仲良くやってる?」


「はい。特になにもなく…」


「そっかぁ。…ね、デートってどんなところ行くの?」


「うーん。だいたい、映画見てご飯食べて…」


「ホテル?」


「はい…(笑)」


「でも、バレるのすごく怖がってるんでしょう?映画館はOKなんだ?」


「隣町で待ち合わせて、そこから車でさらに30分以上は走ります!」


「わお。抜け目ないね」


「はい。でも…最近、家庭内別居っていうんですか?奥さんと全然話してないみたいで。」


「そうなの?…子供は?」


「小学校あがってからは、塾ばっかりって。奥さんが教育ママで。トモキくんは帰りも遅いし、入る隙が無いというか…」


「なるほど…。みんな色んな事情があるもんだね…」


「はい。見た目には分かんないですよね、ほんと…。」


2人で朝のお茶をすする。



作業員たちが使った灰皿を片付けていると、ゆりちゃんが言った。


「アキさんたちは、どんなデートするんですか?♪」


「え?私たちは…」


灰皿の中には、キョウちゃんの煙草も混ざっている。

茶色のフィルターの、強い煙草…ー。


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