メランコリック・ウォール
第14章 スコール
「まだ、デートってした事ないなぁ…」
「えぇー!そうなんですか?!」
「うん…2人きりで出かけたこと、ない。」
「しないんですか?デート…」
「うぅん…最近ほら、忙しいじゃない?」
「あぁ、そうですね…この現場終わるまで、しばらく忙しくなるでしょうね。」
「うん…落ち着くまでは、無理かなぁ」
「でも、楽しみがあって良いじゃないですか♪」
「行きたいところ決めとけって言うんだけど、全然思いつかないんだよねぇ」
「うふふ。そんなの、深く考えなくても良いんですよ。アキさんが、森山さんと行きたいところ。ないですか??」
「うーーん……」
「ホテル?」
「ちょ、ゆりちゃん!!?」
「あははは!」
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税理士さんのやってくる日。
今まで私は父親が来るか息子のトモキくんが来るかは当日まで分からなかったけれど、これまでもゆりちゃんはトモキくんからの連絡で知っていたようだった。
「今日は、トモキくん来るって?」
「はい、多分…。私たち、そういう関係って全然分からないと思いますよ(笑)」
たしかに、これまでにもトモキくんが来たことはあったが、まったく気が付かなかった。
「そっかぁ。なんだかもどかしいね。本当はもっとイチャイチャしたいでしょ?ふふ」
「そりゃあ、せっかく会えたなら…でも、できません!仕事中ですから。えっへん」
「私も見習わなくちゃ」
「もしやアキさん、仕事中にイチャイチャしてるんですかぁ~?不良ですね!?ふふ」
「そ、そんなわけないよ。」
やがて事務所の戸が開き、トモキくんがやってきた。
”ぜったいに変なこと言わないで下さいね” と念押しされたものの、なんだかどうしても緊張してしまう。
「あ。アキさん、ご無沙汰してます」
「トモキくん、久しぶりだね」
「前回も僕だったんですけど、アキさん現場に行かれてたとかで」
「うん、そうなの。連続でトモキくんが来るの珍しいね?お父さん、元気?」
「はい。元気なんですけど…最近すこし疲れてるみたいで。もう歳ですし…。シイナさんは僕の担当に…って、父は言ってるんです。 」
「へぇ、それはいいじゃない。お父さんゆっくり休ませてあげてね。」