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メランコリック・ウォール

第14章 スコール


すぐに作業に取り掛かるトモキくんに、いつもは私がしていたお茶出しをゆりちゃんに頼んだ。


私はパソコンに向かって明日の現場について作業を進めながら、時折ふたりに目をやった。


本当に分からないもんだな…。


でも、この2人が実は…ーーー。


良からぬ妄想が広がりそうになり、すぐに振り払う。






14時を過ぎた頃、外でザアザアと急に大きな音がし始めた。


「うわぁ、スコールかな…」


「そうみたいですね、雷警報も出てます」


私とゆりちゃんの会話を聞いて、トモキくんも外を見た。


「かなり降ってきましたね…」



すぐに、事務所の電話が鳴る。


「ウォール・シイナでございますー」


「アキちゃん、この雨じゃ無理だ。引き上げるからよう!」


親方からだ。


「はい、大丈夫ですか?気を付けて戻ってくださいね」


「おう、俺ァそのまま帰るから。森山に、明日の書類だけ渡してやってくれ」


ザアザアと激しい雨がお互い響く中で、親方はそう言うと電話を切った。



内装のオサムと義父は天気に関係なく仕事があるが、外装業者である親方とキョウちゃんは天気によってどうしても出来ない日がある。



「親方たち、引き上げるって」


「この雨ですもんね…」


ゴロゴロと空が唸りを上げ、時折ピカッと光る。
夏の雨だ。



「また停電しちゃうとまずいから、今のうちにバックアップ取っておこう」


私とゆりちゃんが作業を始めると、トモキくんも自分の作業を急いだ。






15時になり、カラカラと戸が開くとびしょ濡れのキョウちゃんが入ってきた。


「おつかれさ…大丈夫?今タオル持ってくるね。ゆりちゃん、あったかいお茶淹れてあげてくれる?」


「はい!すぐに!」


バスタオルを持って走り寄ると、彼は「ありがと」と言って受け取り、髪をワシャワシャと拭いた。


「あ…こちら、税理士のトモキくん」

「どうも」

「外装の現場監督、森山さん」

「お世話になっております。」



2人が挨拶を交わすと、まだ15時過ぎなのに外はみるみる暗くなっていった。

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