メランコリック・ウォール
第14章 スコール
「アキさん、バックアップ完了しました~!」
「良かった…」
以前、雷で停電を起こしたときはデータが飛んで大変な思いをしたんだ。
「アキさん、僕の方もこれで終了です。あと、ここに印鑑を」
「あ、はい。」
最後の作業まで済ませると、トモキくんは帰るためにノートパソコンや書類をしまい始める。
「ちょっと早いけど…今日はもう上がってOKだよ」
「えっ?」
「こんな天気だし…トモキくん、悪いけどついでにゆりちゃん送ってあげてくれないかな?」
「え?あ、…もちろんです!」
ゆりちゃんはなんだか照れくさそうな表情で私を見る。
「じゃあ…お言葉に甘えて、今日はもう上がります!ありがとうございます、アキさん」
「ううん。気を付けてね」
「森山さんも、お疲れさまでしたー」
「おつかれーっす…」
ソファにぐったりもたれるキョウちゃんが返すと、2人は揃って出ていった。
車が発車する音を聞いてから、くるりと振り返る。
優しく微笑むキョウちゃんは、煙草を片手にソファに埋もれたままだ。
「めちゃくちゃ雨に打たれた。」
「うん…ちゃんと拭いた?」
「いや、絶対カゼひくわ」
「えぇ?」
「キスしてくれないと、絶対カゼひく」
「んもうっ…ーーーふふ。」
近づいていくとキョウちゃんは煙草を揉み消し、”おいで” と言うように腕を広げた。
ぎゅう…ーっと抱き合うと、久しぶりの感覚に心地よく溺れる。
「キョウちゃん…すごく冷えてる」
「そりゃあな。マジでやばいよ、雨。」
どんどん強くなる雨と雷が、ここには私たち意外に誰もいないことを知らしめる。
「ね、早く」
「え?」
「早くしてよ。カゼ引いちゃうから」
「自分からするの…?」
「嫌なの?」
「…恥ずかしい」
「ふふっ。……じゃあ、しなくていいよ。」
「…」
もう一度キョウちゃんの胸にうずくまる。
ずっと待ちわびていた唇が目の前にあるのに、どうにも恥ずかしくてたまらない。
「キョウちゃん…」
「何?」
「んんー…」
甘えてみても、彼はキスしてくれない。