メランコリック・ウォール
第15章 独占欲
しばらくすると、大雨の音に混じってトラックの気配がした。
カラカラと戸が開きオサムと義父が帰ってくる。
「おかえりなさい」
「おつかれっす」
何事もなかったかのように振る舞い、入ってきた2人も何ら疑う様子はない。
「お義父さん、お茶どうぞ」
「おお、わるいな。」
オサムはペットボトルに入ったコーラをゴクゴクと飲んでいる。
「んっ?…ふははは、森山くん、お盛んだねぇ~!」
何事かと思い振り向いて見ると、オサムはキョウちゃんの鎖骨についたキスマークを指摘していた。
あっ…ーーー。
雨に濡れたからシャツのボタンをいくつか外していて、見えてしまったんだ。
「さすがイケメンは違うね。何人彼女いるの?ははは」
「はは…。そういう相手は、1人だけっすよ」
1人だけ…。
思いがけず、彼の返答に胸がドキドキする。
「またまたぁ~。ニクいねぇ」
「オサムさんこそ、何人の女と遊んでんすか(笑)」
冗談でキョウちゃんが言うと、オサムは
「ちょ、それはおめぇ、ここでは言えねえよ(笑)」
と言いながら私に目配せする。
あなたの女関係など少しも興味がないのだから、別に言ってくれてもいいのに。
キョウちゃんと並ぶ夫が、ひどく不格好に映る。
”明日から全国的に快晴となり、暑い日が続くでしょう…ーー”
アナウンサーが言い、義父は疲労の溜め息をついた。
「これから暑くなんなぁ…。」
「熱中症、気を付けて下さいね。ときどき差し入れもしますから」
「おう、頼むな」
今請け負っている大きな現場は、都市開発が進む新しい街。
まだ近くにコンビニもお店もなく、作業員たちの水分補給や昼食の問題が懸念される。
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その週末、私は廊下に掃除機をかけていた。
暑くて暑くて、汗が吹き出る。
「ふぅ…もうちょっと…」
額の汗を拭いながら、掃除機のコードを引っ張る。
オサムがいるのかいないのかも分からないが、どうせ自分で掃除などしないのは分かっている。
ついでにと思い部屋の戸をあけると、オサムはちゃぶ台の横でだらしなく口を半開きにして爆睡していた。