メランコリック・ウォール
第15章 独占欲
現場につくと、あと少しでちょうど10時になるところだった。
2人して重たいクーラーボックスを持ち、よろよろと詰め所へ向かう。
こちらに気付いたオサムが駆け寄り、「おお、アイス来たぞー!」と皆に知らせる。
私には目もくれず、当然のようにゆりちゃんのクーラーボックスを持ち、詰め所へ駆けていった。
別にいいけれど…。
「アキさん、私も一緒に持ちます!」
ゆりちゃんが手を差し伸べてくれた瞬間、肩にひっかけていたクーラーボックスのベルトがふわりと浮いた。
「…?!」
いつの間にか、すぐ後ろにキョウちゃんが立っていた。
「おつかれさん」
「あ…」
「森山さん、急に現れないでくださいよぅ!!お疲れ様でぇす!」
「いや、普通に来たって(笑)」
塗料で汚れた作業着ズボン。
まくった裾から伸びる筋肉質な腕。
あんなに重かったクーラーボックスを軽々と持つ彼は、見惚れる私に”どうした?”と目で合図をくれる。
好きだと、何度でも言ってしまいたくなる。
「あ、ありがとう…っびっくりした(笑)」
詰め所に入ると、たくさんの作業員がこれから休憩をとるところだ。
「おお、アキちゃん!悪いねぇ」
曽根さんが寄ってくる。
「お疲れさまです。アイス、食べてくださいね」
私はキョウちゃんが置いたクーラーボックスの前にしゃがみ、皆にアイスやジュースを配る。
「ありがてぇ~」
「俺、そっちのアイス!」
あっという間に減っていくアイス。
「森山さんは、どれにする?」
見上げると、キョウちゃんはなんだか険しい顔で私の腕を掴んで立ち上がらせた。
力強い腕は、私をしっかり立たせると離れた。
「俺、あのラムネ味のがいいっす」
「…?あぁ、これね。はい、どうぞ」
一体何なんだろう?分からないまま、どんどん売り切れていくアイスやジュースを突っ立って眺めていた。
そのうちにキョウちゃんが詰め所を出ていってしまう。
…あの不機嫌そうな態度は、何だったのだろう。
なにか怒らせてしまったのだろうか?
見当もつかないまま、空っぽになったクーラーボックスを閉める。