メランコリック・ウォール
第17章 自責
「私たち…全然話さないなぁ、そういうの。キョウちゃんがどう考えてるかも分かんないや」
私はつい流れで”キョウちゃん”と呼んでしまったことに恥ずかしくなるが、ゆりちゃんはにっこりと笑っただけだった。
「アキさん…変なこと言いますけど」
「うん?」
「エッチ…しちゃったら、そしたら…」
「そしたら…?」
「きっと、今よりもっともっと、未来の約束が欲しくなります…」
彼女の切ない表情に胸が打たれる。
「ゆりちゃん…」
「あはは…」
”つらい”と言えない。
それは自分たちが意思を持って禁忌を犯し、自ら溺れていることを自覚しているから…ーー。
「私ね…[今]をぜんぶぜんぶ捨てて、どこか遠くに逃げ出したいと思っちゃうことある」
「はい…。森山さんと、ですよね」
「うん…」
「私も、最近じゃ毎回…。胸が苦しくてたまらないんです。」
空きっ腹のお酒で頭がボーッとしてくる。
少し喋りすぎたかもしれない。
「とりあえず今日は、今だけは…私たち、恋する乙女ってことでもいいかな?ふふ…」
「あはは、はい!そうですね。私、韓流スターが好きじゃないですか。なのに、まさかトモキくんと…って、驚きました?」
「うん!ぜんぜん違うじゃ~んってね(笑)」
「ふふっ、そうですよねぇ。自分でも驚きです。」
お酒をおかわりし、そこからは明るい話ばかりした。
まるで自分たちの過ちを消したがるように…ーー。
…
3時間、みっちりお喋りをするとお互いに目がすわってきた。
「そろそろ…行こっか?」
時刻は21時過ぎで、店内では他に数人が酒を嗜んでいる。
「そうですね、酔っちゃいました(笑)」
「私は歩いてすぐだけど、ゆりちゃんタクシーつかまえないとね。」
「私も歩いて帰れますよぅ~!」
「だめ、危ないから。あ、領収書もらってね!」
道路沿いで少し待つと、さすがは金曜日の夜。
すぐにタクシーが通り、私たちは別れた。
さぁ、帰ろう…ーーー。