メランコリック・ウォール
第17章 自責
「……」
「…おーい、大丈夫か?」
「先のことはね、」
「…え?」
「未来のことは、話さないなぁって答えた。」
「…どういう事?」
「キョウちゃんが…どう考えてるのかも、分からないって答えたの」
言ってから、私はどれだけ自分の立場が分かっていないのだろう…?と、後悔した。
「アキ…」
キョウちゃんが思いを語っても、語らなくても、彼は独身で、私は人妻だ。
その事実は変わらない。
いつも電話を待つのはキョウちゃんで、いつも1人なのはキョウちゃんなのに。
「…ううん、やっぱりなんでもない。ごめん。」
「酔ってるからそういうこと言うの?」
「…そうかもしれない」
実際、お酒の力がなければとても言えなかったろうと思う。
「俺が、…言えると思う?これからも一緒にいようなんて。約束だぞってお前に、言えると思ってるの?」
声が低い。怒っているときの声だ。
「…」
「言ったらなにか変わるのかよ…」
やっぱり、そうだよね。
私はなんてワガママなんだろう。
「キョウちゃん、…ごめんね。怒らせるつもりで言ったんじゃないの…私は、ただ…」
「何?」
「…キョウちゃんに抱きしめられるとね、このまま明日なんて来ないでって、いつも思っちゃう。」
「俺はいつだって、アキを待ってる。アキが望むなら、すぐに迎えに行って離さない。……だけど、そうは出来ないだろ」
「…ん…」
「未来の約束が欲しいならいくらでもしてやる。守りもする。アキはできんの?」
できない、…そう言ってしまえば私たちの関係は儚く散るのだろうか。
もうとっくに着いている事務所の前で、私は立ち尽くしていた。
「それは……」
「俺がどう考えてるか分かんないのが嫌なら、聞けよ。全部言ってやるよ。怖くて踏み込めないのはアキのほうだろ。」
まったくそのとおりだ…。
言葉にならない。
「ごめん…なさい……」
「……」