メランコリック・ウォール
第17章 自責
しばらくの沈黙の後、私はカラカラと事務所の戸を開けた。
奥の居間から少しの光が漏れている。
おそらく義父がテレビを見ているのだろう。
「家、着いた?」
「うん…」
「俺には、アキが何考えてるかのほうが分かんねえよ。」
「え……」
「ごめん、今日はもう切る」
ーーーこれまでで初めて、キョウちゃんと険悪なムードになってしまった。全部、私のせいだ。
未来の約束がないことを嘆きながら、出来ないのは自分のほうだった。
情けなさと、この状況への悲しみで頭が重い。
自室に入り、どさっとベッドに倒れ込むとそのまま視界が遠のいた。
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目を覚ますと外はうっすらと明るくなってきた頃で、私はしばらくカーテンの隙間をぼんやり見つめていた。
あぁ…夢じゃなかった。
どうしたらいいのだろう。
昨夜のお酒が響いているのか、胸焼けがして気分が悪い。
朝7時になり、私はシャワーを浴びるため1階へ降りる。
化粧、したまま寝ちゃった…。
そんなどうでもいいことを考えながら、昨日のキョウちゃんとの会話を今は思いださないようにしていた。
…
シャワーを済ませ、居間で何気なくテレビをつける。
ニュースでは、台風が近づいていることを告げている。
カラカラカラ…ッーー
今日は土曜日なのに、事務所の戸が開く音がした。
「…?」
お客さんだろうか?それにしては時間が早い。
不思議に思い確認しに行くと、そこにはオサムの姿があった。
「え…ー」
とっさに声が出る。
「…おう」
意味不明な挨拶をするオサムは、昨日仕事が終わってそのまま出ていったはずなのに、なんだかさっぱりと身綺麗だ。
「…朝帰り?」
「あぁ?ちっと長引いたんだよ。悪いか?」
なにが”長引いた”のだろうか。
それにしてもやけにイライラしているようだ。
「べつに」
悪いもなにも、本当にどうでもいい。
ほうっておこう。
「お前、なんだよその態度は」