メランコリック・ウォール
第3章 意外な素顔
一瞬、顔が引きつったかもしれない。
当たり前のように手を差し出す森山さんに、驚きを隠せなかった。
「これ…?」
私の使っていたカップを持ちながら聞くと、彼はこの状況なんて気にする素振りもなく頷いた。
ここで変に拒否するのも、間接キスだー!なんて騒ぐのも大人げない。
私は彼にカップを手渡した。
ゴクリと一口飲むと、
「んっ。うまい。…まぁでも俺、まずいもんがあんまり無いんすけどね」
笑いながらカップを返され、私もこの場を取り繕うように笑い返した。
森山さんって、こういうタイプだったんだ…?
女性慣れ、してる…のかな?
深く考える間もなく、ゆりちゃんが戻ってきた。
もし私が居なかったら、この立場はゆりちゃんだったかもしれないな…。
なんとなく罪悪感に駆られ、私もトイレへ立った。
「ピッチ早すぎたかな…」
ふわふわとふらつく足元が、なんだか楽しくもある。
こんな時間にお酒に酔うのは、なんだか非日常的で新鮮だ。
なんとか用を足し、手を洗って鏡を見ると頬はポカポカと火照っていた。
お酒を飲むと赤くなるのは体質なので慣れている。
けれど、ちょっと恥ずかしいな…。
転ばないように歩き出し、席が近づいてくるとなんだか甲高い声が聞こえた。
「森山さぁ~ん、何飲んでるんですかぁ?」
あっ…。
森山さんの隣には女の子の後ろ姿があり、私はすぐに桜子ちゃんであると悟った。
横ではゆりちゃんが怪訝そうな顔で私に目配せしている。
「桜子ちゃん、こんにちは」
「あっ!アキさ~ん。私も来ちゃいましたぁ♪」
桜子ちゃんは親方の孫で、大学を卒業した去年、実家に戻ってきた。
彼女が小学生の頃から知っているけれど、当時からマセていたっけ。
2ヶ月前に森山さんがうちで働くようになってから、会えばベッタリ、ずっとこの調子だった。