メランコリック・ウォール
第3章 意外な素顔
ゆりちゃんと桜子ちゃんは気が合わなくて、いつも少しピリッとした空気に変わる瞬間がある。
私はなるべく平穏に時間が過ぎる事を祈りつつ、ゆりちゃんにワインを注いだ。
「ありがとうございます。アキさんって、ぜったい手酌させないですよね!」
「そう?たまたまだよ~」
どうもどうも、とまた2人でひっそり乾杯すると、すかさず桜子ちゃんが割って入った。
「あっ!ワインだ~。私も欲しいなぁ~!」
なにも私たちにまで甘え声を出さなくても良いだろうが、森山さんがいるといつもこうだ。
新しいカップを取り出してワインを注いであげると、彼女は満足したようにコクリと口に含んだ。
「おい桜子っ!お前あんまりワガママ言うなよ?お前そもそもなんで来たんだ、会社の花見によ!」
桜子ちゃんのワガママっぷりに普段から叱りがちな親方が言う。
「ワガママ言ってないもぉ~ん。おじいちゃん、こわい~!」
森山さんにすり寄ると、親方はさらに口調を荒げた。
「人前でベタベタするな!んっとに、しょうがねえ小娘だ!…ごめんな、アキちゃん」
「い、いえ…そんな。」
愛想笑いをすると、何事もなかったかのように桜子ちゃんはワインを飲み、「森山さんも飲みますかぁ?」と自分のカップを差し出した。
なんだかモヤモヤするけれど、どうしようもない。
「いや、要らない」
あの冷たい目に戻った森山さんが言うと、どこかホッとしたような気持ちになる自分がいてまたモヤモヤした。
「アキさん、このささみチーズフライって言うんですか」
「うん?」
「これとワイン、すごい合います~!」
「そう?どれどれ……。ほんとだ!合うねぇ、美味しい!」
「でしょお??」
「ゆりちゃん頑張ってチーズ巻いた甲斐があるね!」
「えへへ。ほとんどアキさんですけど(笑)」
桜子ちゃんが私たちをじっと見つめて会話を聞いていた。
「良かったら桜子ちゃんも食べてね?」
厚意のつもりで言うと、親方も賛同した。
「そうだそうだ、アキちゃんの手料理はうまいぞ。お前も少しは見習えっ」