メランコリック・ウォール
第18章 堕
「じゃあさ、これだったらどっちが好み?」
1人の作業員が雑誌を見せながらキョウちゃんに問う。
「こっちっすかね」
「「はははは!」」
あぁ、聞きたくない…ーーー。
目も耳も塞ぎたい。ここから離れたい…。
こんなささいなことで涙が出そうになるなんて、私は相当寝不足なんだろう、きっと。
ゆりちゃんが心配そうに私の顔色を伺うが、私は作業員たちのほうを見ることが出来ない。
キョウちゃんの好みの女なんか、知りたくないもの。
…”ズキッ…ー”
急に激しい頭痛とだるさに襲われ、思わずデスクにうずくまった。
「アキさん、大丈夫ですか?!」
男たちがこちらを見たのが分かる。
「う、うん大丈夫っ……」
「もう今日は休んで下さい!お願いです…。今日、お昼も食べてないでしょう?私、なにか買ってきます!」
「ゆりちゃん、本当に大丈夫だから…心配かけてごめんね。」
「でも…顔が真っ青です。とにかく、部屋で横に…」
仕事をしたくても、身体が言うことを聞かない。
私はゆりちゃんの言葉に甘えて自室へと何とか移動した。
結局、今日は一度も彼の目を見ることは出来なかった。
…
夕方、ゆりちゃんが部屋にやってきた。
「本当に大丈夫ですか?」
「いつでも連絡して下さい、すぐ駆けつけますから!」
そんなことを何度も言ってから部屋を出ていった。
しんと静まる自分の部屋。
私1人だけ。
ぽろぽろと溢れ出す涙は熱く、私の頬をつたった。
堰を切ったように思い切り泣いた。
どうしてこうなっちゃったんだろう。
私が、あんなこと言わなければ…。
考えるのはオサムの浮気ではなく、キョウちゃんの事だった。
…
しばらくして涙も止んだ頃、廊下からオサムが怒鳴る。
「アキーーッ!」
一体なんだというのか。
私は起き上がるのも億劫で、そのまま無視を続けた。
やがてドタドタと荒い足音を轟かせながら、こっちへやってくるのが聞こえる。
ガラッと戸が開き、不機嫌そうなオサムが私を見た。
「おい……メシは」
驚いてしまう。
生気を失い横たわる妻を見て、言いたいのはそれか。
それが自分の夫と思うと、情けなくてどうしようもない。