テキストサイズ

メランコリック・ウォール

第18章 堕


強い風の中、ゆっくり転ばないように歩く。


近づいていくと、キョウちゃんが運転席から降りた。


無言で助手席のドアをあけてくれると、乗るように促される。


「キョウちゃん…ごめんね。心配かけちゃって…」


彼はガサガサと大きな袋を私に渡す。


「とりあえずこれ飲んで、今。」

袋から小さな栄養ドリンクを取り出すとそう言った。


けれど今は…なにも喉を通りそうもない。


「あ、ありがとう…。でも今はちょっと…。あとでもらうね」

「だめ。今すぐ。」

「…」


黙り込む私を見ると、キョウちゃんはおもむろに栄養ドリンクのキャップをあけ、自分の口に含んだ。


「ん」

唇がせまり、そのまま触れた。

「…っーーー」


コクリと飲み込むと、甘くて粉っぽい味が広がる。


混ざり込む彼の唾液が、疲弊した私の身体に少しの熱を与えた。


もう一度繰り返し最後の一口を飲み終えると、私は感極まって涙をこぼしてしまった。


「アキ…?」


「うぅ…っ…うぇ…ん、ヒック……」


「…なんの涙?」


「わか…らない…っーー。」

実際、キョウちゃんと険悪になってしまった事の悲しさか、やっとこうして一緒にいられる喜びか、私には分からなかった。


彼は私を強く抱きしめた。
苦しいほどの力で、私に少しずつ血が通い始めるのが分かった。



「アキ…ごめん。あのときは俺、冷静でいられなくなってた。」

「ん…私も、ごめんなさい…」


「こうしてアキを…捕まえて、離したくない。………だけどできない」


キョウちゃんにまとう空気が、一気にせつなく冷える。


やり場のない悲しみが喉から伝わり、かすれた声となって放出された。


離さないで、私を連れ去って…ーーー
そんな無責任なこと、言えるわけない。

けれど、手放すこともできない。


しばらく抱き合ったあとで、キョウちゃんは言った。


「俺…これからもずっと、アキからの電話を待ってるんだと思う」

「っ……」


彼はいつも私を安心させてくれるのに、私は彼に何も出来ない。


せつない表情を浮かべるキョウちゃんに、そっと口づけた。


彼は私の舌を優しく受け入れ、愛おしそうに大切に吸い上げる。


ストーリーメニュー

TOPTOPへ