メランコリック・ウォール
第19章 台風の夜
唇を離してもなお、真っ直ぐに私を見つめ、大きな手はこわれものを扱うように頬を包む。
「キョウちゃん…」
「ん」
「…どうしようもなく好きで…怖いの。ワガママだって分かってる…でも、離したくないと思ってしまう自分が怖い…」
「…離すなよ。俺はもうとっくにアキのものだよ。素直に飛び込んできて」
「んぅぅ……っー」
また、涙ぐんでしまう。
ここにはこんなにも愛が溢れているのに、決して結ばれることはない。
「ふふっ、もう泣くな。会いに来たろ」
「うん…っ」
「アキは明日なんて来ないでって言ったけど、俺は…アキに会えるなら、何度でも明日が来て欲しいよ」
「…っ私も、いつでも会いたい。離れたくない…」
「ん…」
たとえワガママでも、矛盾していても、それでも伝えたい。
キョウちゃんは何も言わずに私の思いを受け止めてくれる。
相変わらず強い風が吹き、やがて雨も混じってきた。
…
「それにしても、今日の朝はビビった。」
「どうして?」
「アキが真っ青だったから」
「あぁ…」
「風邪か?」
「ううん。あまり食欲もないし、眠れてなかったから…。でもさっきまで寝てたから、少しマシになったよ」
「何かあった?」
キョウちゃんとぶつかってしまった事に加え、オサムが朝帰りした事、口論も耐えないことを話す。
「キョウちゃんと一緒にいれる時間は本当に私にエネルギーをくれるの。でも…家にいるのはすごくしんどい」
「…そうか。オサムさん、そんな言い方するんだな、家の中だと」
「うん…。」
「アキはいいの?ずっとそんなんで…」
「…嫌。でも、仕方ないから…」
「…」
キョウちゃんが黙ってしまった。
さすがに、オサムの話をしすぎただろうか…。
「き…キョウちゃん…?」
彼はふと我に返ったように私を見る。
「俺といる未来も一つの道だよ。…なんてな」
せつなく笑い、おどけた。
どうして、好きな人にこんな顔をさせられるのだろう。
自分を呪わずにいられない。
「キョウちゃんの描く未来に、私は…いる?」