メランコリック・ウォール
第19章 台風の夜
「アキ。もう少し眠ったほうがいい。」
「ん…まだ…一緒にいたい」
ひとつ口にすると、欲望がとめどなく溢れそうになる。
クスッと笑うと、キョウちゃんは煙草に火をつけ、車を発進させた。
「…どこに行くの?」
「ん。ちょっとドライブしよう」
「…うん!」
横殴りに降りしきる雨の中、私たちを乗せた車は闇に滑り込んでいった。
…
車が入っていったのは、10台ほど停められる駐車場だった。
「ちょっと待ってて」
「…うん?」
車を降り、雨の中小走りで建てものに向かう彼が遠くなる。こんな遅くに、なにか用事だろうか。
すぐに戻ってくると助手席をあけ、持ってきた傘に入れてくれた。
「キョウちゃん…?ここ、どこ…?」
「俺んち」
足音は雨の音にかき消される。
扉の前まで来ると、彼がガチャリと開けた。
「入って」
「う、うん…」
男の人の家に来るなんて経験は、記憶にないほど昔のことだった。
どうしていいか分からず立ちすくんでいると、キョウちゃんはバスタオルを持ってやってきた。
「風呂入る?雨に濡れたろ」
「えっ…と…」
「一緒に入る?」
いたずらな笑みで言う彼の肩をぺしっと叩く。
「んもう!…」
結局、私はキョウちゃんの家でシャワーを浴びてしまった。
良いのだろうか…まさかこんな展開になるなんて。
「ここに適当な服、置いとくから。」
浴室の外から声がかかる。
「あ、ありがとう…」
彼の部屋着だろうか。
とっても大きなTシャツとスエットズボンに身をつつむと、なんだか子供になった気分だ。
「お、んじゃ俺も入ってくるから…って、…、すっぴん?可愛いじゃん」
口元に手を当てて、キョウちゃんが照れている…?
「あんまり見ないで…」
「ふふっ。風呂行ってくるから、これ食べといて。」
テーブルには、今日会ったときに渡されたビニール袋が置かれている。
「う、うん…ありがとう」
バタンとお風呂場に入る音がして、私は袋に入ったたくさんの中から桃ゼリーを選んで食べた。