メランコリック・ウォール
第20章 月と星
「そんな顔すんな」
「だって…」
帰りたくない。
一緒にいたい。
子供のようにおねだりが出来たらいいのに…。
左手を差し出す彼に応え、きゅっと握りしめた。
「いつでも迎えに行くよ。いつだって会える。」
自販機の横に車を停め、最後に触れるようなキスを交わすと車を降りた。
「じゃあ、あとでな」
「うん、ありがとう。…元気になった。えへへ…」
窓から腕を伸ばし、くしゃっと髪を撫でられる。
「やっぱり、すっぴん可愛い」
優しい笑みでキョウちゃんが去り、私は家へと向かった。
…
そーっと戸を開け、音を立てないよう部屋へ入る。
眠ることも出来ず、ひたすら彼の部屋や…話した内容を、思い返していた。
6時になり、いつものように1階へ降りる。
朝食の準備をし、しばらくすると2人が降りてきた。
少しの動悸…ーー
「お前、朝っぱらに帰ってきたろ」
オサムが不機嫌そうに言い、私は瞬時に冷や汗をかいた。
気付かれていた…。
「……」
なにも言えないまま小皿を用意していると、義父が口を開いた。
「おめぇだって、夜遅くに帰ってきただろう。最近遊びすぎなんじゃないのか?歳を考えろ」
オサムは昨夜も出かけていたんだ。
知らなかった。
「…。」
オサムは気に食わない様子で黙り込み、白米を口に詰め込む。
「アキちゃん、夜遊びもたまには良いが…体調はもう良いのかい?」
「は、はい…もう平気です。すみませんでした…」
「うん。アキちゃんが寝込んでたってのに、お前もお前だ。」
「…チッ」
舌打ちするオサムが、もう完全に他人に見えてきた。
私たちは果たして本当に家族と言えるのだろうか。
「お前たち、大丈夫なのか?夫婦にゃ、いろいろあるが…心配だよ、本当に。」
夫婦、と言われても、なにひとつ実感がわかない。
オサムが夫なんだと言葉では分かっていても、私の中の深い部分がそれを受け入れられない。
「心配かけて、すみません…」
「いや。…そうだ、たまには2人で旅行にでも行ってきたらどうだ?今の現場が終わったら…」