メランコリック・ウォール
第20章 月と星
今さら、そうしたからと言って何が変わると言うのか。
心配する義父の気持ちも汲みたいが、こればっかりは…。
「そんなもん行かねぇよ、俺ァ。」
ばっさりと言い切るオサムに対し、急激に自分の血圧が上がるのが分かった。
2人で旅行?私こそ願い下げだ。
「またお前そんなこと。つまらない意地張るんじゃないよ。」
「意地じゃねぇよ。こいつと出かけたってしょうがないだろ。」
「おい。いい加減にしろ。」
「朝までどこにいたんだか知らねぇけどよ。」
「あなたが自分の好きにするって言ったんでしょう?先に朝帰りしたのはどっち?それならば私も好きにしますと言ったはずだけど。」
「…チッ。生意気になっちまったもんだよ、おうおう、偉そうに」
吐き捨てるように言って、オサムは居間を出て行く。
「偉そうなのはどっちよ…っ!!」
声を荒げたのはずいぶん久しぶりに思う。
義父はオロオロしながらも謝った。
「アキちゃん、ごめんな…」
「いえ、お義父さんはなにも…。私も勝手してすみません。…」
「俺から言わせりゃあ、あいつのほうが”生意気になっちまった”、だよ。どうしようもないな…」
ブツブツ言いながら残りの朝食をとる義父を横目に、私は仕事の身支度を始めた。
オサムとはもう二度と口を聞きたくない。
そう強く思いながら…。
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土曜日がやってきた。
家では最低限の家事をして、オサムとは一言も喋っていない。
義父とも挨拶に毛が生えた程度のやりとりで、あとはひたすら部屋にこもっていた。
今日は待ちに待っていたデートの日。
キョウちゃんが九州行きの飛行機に乗る前の、束の間のひとときだけれど。
それでも私にはじゅうぶん嬉しかった。
朝からさっさと支度を済ませると、待ち合わせの駅へ急いだ。
「あっ…」
お土産屋さんの前に立つ彼を見つけ、私は駆け寄った。
「ごめん、待った?」
「いや、全然。」
「お父様にお土産、買う?」
「んー…。まぁ、飛行機乗る前でいいか。」
ホームで少し待つと、電車がやってきた。