メランコリック・ウォール
第20章 月と星
「欲しいの?」
「うーん…でも、パスポートなんて縁がないしなぁ。ふふ、見るだけで満足だよ」
「…そっか。」
それから店内をゆっくりと見て回り、足を止めたのはキーリングが並ぶショーケースの前だった。
「欲しいのあった?」
「これ…素敵だなぁ」
きらりと光るシルバーの輪っかに、三日月のチャームが揺れる。
まわりには、他のチャームのものもたくさん並んでいる。
「キーリングか。いいね」
「ん…。キョウちゃんは月」
「ははっ。俺、そんな大それたヤツでいいの?」
「キョウちゃん、お月さまみたいなとこあるよぉ?ふふ…。私のは、キョウちゃんが選んで」
「アキは…」
ぐるりとショーケースを見回し、キョウちゃんは少し考えたあとで言った。
「星、だな」
ふいに、月の宮旅館で一緒に眺めた星空を思いだす。
…
払うというのに、どうしても聞かないキョウちゃんに押し切られる形で、結局彼が2つ分のお金を出した。
「んもぅ…それじゃあ意味ないでしょ?…でも…ありがとう。大事にする」
「俺はアキと一緒に選んだってだけでじゅうぶんなの。あとでカギ付けよう。」
「うんっ!」
それから私たちはレストランに入り、昼食をとることにした。
「アキが食べたいもので良かったのに。」
「ううん、私もハンバーグ好きだもん。どれにしよっか~」
歩きながら、好きな食べ物を尋ねるとキョウちゃんはすぐにハンバーグと答えたのだった。
たまたま近くにあったこのお店は、ハンバーグ専門店。
「俺は普通の、デミグラスソースのやつ」
「私は…チーズが乗ったやつがいいなぁ」
ふたつのハンバーグが運ばれてくると、私たちは仲良くシェアして食べた。
「ん、うまい」
「ね!どっちも美味しい~。しあわせ…」
「大げさだな、ははっ」
本当に幸せなんだ。
まさかこうして、昼間からキョウちゃんと2人で街に出られるなんて。
作りがお揃いのキーリングも買ってもらっちゃった…。
「キョウちゃん、お誕生日って6月って言ってたよね。何日なの?」