メランコリック・ウォール
第20章 月と星
「ん、21日」
「そっか。…私たちもう、長電話とかしてた頃だよね」
「そうだね。」
ハンバーグを頬張りながら、どうってことない様子で彼は答える。
「なにかプレゼントさせて。もう8月になっちゃったけど…」
「ふふっ。別にどうでもいいよ、俺の誕生日は」
「そんなことないよぅ!ちゃんとお祝いしたい。」
「もうアキからプレゼントもらったけどな。最高の。」
「…??」
「雨の日、迎えに行ったの覚えてる?」
「もちろん。……ーーっ!!!?もしかして、その日って…」
あの夜。
キョウちゃんと初めてキスした日。
私の胸元に赤い痕がついた、最初の日…ーーー。
「そう。21日。」
「えぇーーっ…!ごめん…!考えてなかったぁ…私、自分のことばっかり愚痴って…。言ってくれたら良かったのにぃ!」
これは落ち込む。
どうして気にも留めなかったのだろう…。
「今日、俺の誕生日なんだけどって?(笑)俺が言うと思う?ふふ」
「い、言わなそう…」
「だろ。アキは、10月の何日なの?」
「6日。私、秋ってすごく好き。冬の匂いがしてきて…なんだかわくわくする」
「そうなんだ?」
「うん。キョウちゃんは?」
「俺は、アキが好き。」
私の頬を指でつつきながらキョウちゃんはにっこり笑う。
「そのアキは…っ…んもう、バカ。」
「ははっ」
…
店を出て、手を繋いで駅まで歩く。
「ごちそうさまでした」
「いいえ」
「何だか、してもらってばっかり。」
「いいの。アキに使えるなんて、働く甲斐があるわ。」
これからキョウちゃんは電車で東京まで行き、そこから飛行機に乗る。
「ね、キョウちゃん…」
「ん?」
「東京まで、お見送りしたい。」
「駄目。1人で帰すの不安すぎ。」
即答だった。
「んぅぅ…私もう、32歳だよ?1人でも帰れるよ」
「駄目。」
「むぅう…っ」
「もうすぐ今の現場も終わるし。そしたらちゃんとデートしような」
「…うん。」