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メランコリック・ウォール

第21章 異物


結局、どうしてもと食い下がり、駅のホームまで見送る事になった。


「まだ10分はあるな。飲み物でも買うか」

買ってもらったレモンティーに口をつけ、遠くで鳴いているセミの声を聞く。

楽しかったデートはもうすぐ終わる。


「あっという間だった…」

「そうだな。今度は丸1日遊ぼう」

「うん!」

「ありがとな、付き合ってくれて」

「ううん。会えて嬉しかった。」


反対側の電車が到着して、周囲が少し騒がしくなる。


…明日まで、キョウちゃんは遠い九州に行ってしまう。

なんだか変な気持ちだ。


「地元の友だちとも会うの?」

「どうかな。時間あれば」

「そっかぁ…」


「女はいないよ(笑)」


彼は、私の気持ちを見透かしたように笑った。


「そ、そんなんじゃ…!」


キョウちゃんのことはすっかり信用しているけれど、やっぱり言葉にしてもらえると嬉しくなる。

そんなことを、自分の立場も顧みず思ってしまう。


「アキ。俺が近くにいない間、油断すんなよ。行ってやれないから…」

「ん、大丈夫だよぅ…」


電車がやって来た。

土曜日の昼過ぎ、車内は空いている様子だ。


「じゃあ。連絡するから」

「うん…!行ってらっしゃい…っ」


片手をあげた彼が電車に乗り込み、やがて発車した。


たったの1日、なのにこうして別れると何だかとても寂しい。


けれど、キョウちゃんはお父さんに会いに行くんだ。

ワガママなんて言っていられない。


すぐに携帯が鳴り、確認すると今別れたばかりの彼からだった。


[気を付けて帰れよ。今度は一緒に九州行こう]


どうして、彼は私の気持ちが読めてしまうのだろう。


思わず顔がほころび、私はホームを離れた。




せっかく街に出たので少しショッピングを楽しみ、最後に喫茶店で紅茶を飲んだ。


こうして1人で、お店に入るのは随分久しぶり。


[うん。九州、行ってみたいな。
キョウちゃんの生まれ育った場所、見てみたい!]


メールを返し、今は飛行機の中にいるであろう彼を想う。


今までのこと、そして今日のデートを思い返していれば、すぐに時間は経ってしまう。


15時過ぎ、私は名残惜しい気持ちを振り払うように店を出た。


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