メランコリック・ウォール
第21章 異物
最寄り駅で電車を降りると、もわっと熱気に包まれる。
まだまだ強い日差しが照りつける中、私はタクシー乗り場へと足を運んだ。
…
事務所の戸を開け、今日は義父が不在なのだと思い出した。
仕事関係の仲間たちと、朝からバスツアーに出かけたのだ。
夫の夕食だけ用意して、あとは部屋にこもろう…。
そんなことを思いながらゆっくりと階段を上がる。
「…??」
2階の一番手前にあるオサムの部屋から、なんだか怪しげな…声とも言えない、何かを感じる。
「…はぁ…っ」
ーーーもしかして、イヤホンをつけずに堂々とAVを観賞しているのだろうか。
その場で固まってしまった私は、そのまま耳を澄ませていた。
胸騒ぎがする。
「………ん………」
小さく、喘ぐ声が聞こえた。
やっぱり…。
一瞬で気分が悪くなり、背中には汗がつたう。
「ぁんっ……」
これが女の声だとハッキリと確信した。
「いい加減にしてよ!!!」
勢いよく戸を開ける。
なんとそこにはAVを見る夫の姿…ではなく、桜子ちゃんと絡み合う夫の姿があった…ーーーーー
「え…っ……なにしてるの?!」
冷房の効いた小汚い部屋で、若い女に覆いかぶさる夫。
オサムは状況を把握すると瞬時にバタバタと姿勢を変えた。
「お、お前っ…勝手に開けんなよ…っ!」
目の前の現実が、霞んでいく。
まるでテレビでも見ているような感覚。
理解が追いつかない。
「桜子ちゃん…なんでここに…?」
「…あーあ。オサムさん、今日はアキさんの帰りが遅いって言ったじゃなぁい」
「…」
オサムは情けないことに、だんまりだ。
桜子ちゃんは勝ち誇った表情で乱れた服を直している。
脂っこいオサムの部屋に、若い女の子の良い香りが混ざり吐き気がする。
「いつから…こんな…」
しどろもどろに言うと、桜子ちゃんがフッと鼻で笑った。
「さぁ、いつからでしょう?」