テキストサイズ

メランコリック・ウォール

第21章 異物


完全に、馬鹿にされている。


もはやオサムのことなどどうでもいいが、この舐めた態度の娘だけはどうにも気に食わない。


小さな頃から、曲がりなりにも可愛がってきたこの子が。

まさか、オサムと…。


「森山さんへの思いが実らなかったから、嫌がらせしてるんでしょう。くだらない…」


私は落ち着いた口調で言い放った。


「…っそんなの全然気にしてないですから。見当違いです。」


「あら、あんなにアピールしてたじゃない。でも彼は私と仲良くしてたから、気に入らなかったんでしょう?腹いせのつもり?」


オサムは一点を見つめたまま、なおも黙っている。


「興味ないです。おばさん趣味の人なんて!オサムさんは私のこと…すご~く可愛がってくれるんですよ、ねえ?」


彼女が目配せすると、オサムは気まずそうに目をそらした。


本当にくだらない。

心底どうでもいい…ーーー。


「はぁ…。もう、いい。好きにして。そのかわり、この家ではやめて。」


桜子ちゃんは荷物をまとめ、立ち上がった。


「アキさん、許してくれるんですか?」


「どうでもいいの。この人が好きならくれてやるわよ。とにかく今は…出てって…」


「それって自分にも非があるからですか?」


「…え?」


部屋から出ていく彼女が横を通り過ぎる瞬間、耳元で黒いささやきが鳴った。


”私、知ってるんですよ?…ふふ”



階段を降りていく桜子ちゃんを追いかけるように、オサムも立ち上がった。

目が合う。

暴言が飛び出そうになる。


しかし自分がキョウちゃんとしている事を考えれば…やはり、何も言えない。


「家は、やめて」


それだけ静かに言った。


「別に、なんにもしてねぇよ…」


この期に及んでも認めようとしないこの男に、なんだか笑えてくる。


オサムはドタドタと階段を降りていき、「送るから」と声が聞こえた。


やがて車のエンジン音がして、この家には私一人になった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ