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おにぎり短編集

第3章 終電

……謝るタイミングさえくれないのか。

咄嗟に、両手で彼の左手を掴む。
わたしの手が、震えていた。

「……ごめんなさい」

震えながら、声を振り絞る。泣かないように。泣くのは違うと思ったから。
彼は振り向くと、わたしの様子をまじまじと見つめた。

……掴んでいたわたしの手を振りほどく。

……許してもらえなかった……?

一瞬、肝が冷えるような感覚になる。
しかし今度は、振りほどかれた彼の手がわたしの両手をぎゅっと握っていた。
彼が、口の端を少しだけ上げて、わたしの耳元に唇を寄せる。

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