おにぎり短編集
第4章 タイトル未定
「どうやら、他に男がいるらしい。だけれど、俺との結婚を仄めかすようなことはちょこちょこ聞くのよね。どういう心境なのかと」
いつも通りのペース、いつも通りに酔っていた先輩の、例外。わたしはその内側に、そっと足を踏み入れる。
「……寂しいだけなんじゃないですか? 結婚するならその男性じゃなくて、先輩を選びたいってわけで」
「その男への気持ちと、俺と一緒になりたいって気持ちが、両立する感覚がわかんねぇんだわ……」
砕けた語尾と頭を抱える仕草に、一瞬ドキッとしている自分がいた。
ドキッとした自分に動揺して、目がチカチカする。
先輩同様、その気持ちはわたしにもわからないし、いま、動揺してしまった自分の気持ちにも驚く。
平静を装って、わたしは手元のお酒を一口含むと飲み込んだ。
「……わたしは、彼に言われたことがあります。浮気はしてもいいけれど、俺にバレないようにしてねって。変な話、わたしの彼はおそらく、そういうことに対しての興味が薄いのを自分でわかっているので」
「……じゃあ、俺の彼女は俺にバレてないつもりなのかね……」
わたしは齢二十四にしてようやく、酒が入っているときに異性から恋愛相談されることの危険度がどれ程のものか、身を持って知ることになる。
いつも通りのペース、いつも通りに酔っていた先輩の、例外。わたしはその内側に、そっと足を踏み入れる。
「……寂しいだけなんじゃないですか? 結婚するならその男性じゃなくて、先輩を選びたいってわけで」
「その男への気持ちと、俺と一緒になりたいって気持ちが、両立する感覚がわかんねぇんだわ……」
砕けた語尾と頭を抱える仕草に、一瞬ドキッとしている自分がいた。
ドキッとした自分に動揺して、目がチカチカする。
先輩同様、その気持ちはわたしにもわからないし、いま、動揺してしまった自分の気持ちにも驚く。
平静を装って、わたしは手元のお酒を一口含むと飲み込んだ。
「……わたしは、彼に言われたことがあります。浮気はしてもいいけれど、俺にバレないようにしてねって。変な話、わたしの彼はおそらく、そういうことに対しての興味が薄いのを自分でわかっているので」
「……じゃあ、俺の彼女は俺にバレてないつもりなのかね……」
わたしは齢二十四にしてようやく、酒が入っているときに異性から恋愛相談されることの危険度がどれ程のものか、身を持って知ることになる。