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おにぎり短編集

第1章 あいす

「……君、だよね? 口の端のチョコレート。バレるよ。証拠隠滅は完璧にしないと」

そう言いながら、もう一度、彼はわたしの唇に顔を寄せる。わたしの唇を舐めとるようにキスをして、顔を離す。
わたしが目を開けたのを見て、満足そうに笑った。

「……甘い」

その笑顔が、たまらなく愛おしくなって、わたしも口の端を上げて笑った。

「……重いから」

それだけ告げる。彼はわたしの体から自分の体を離す。軽くなったことを素直に喜ぶより先に、くっついていた体温が離れていく寂しさを感じる。
それをわかっていたかのように、彼は布団から出ていたわたしの手を握る。
握られると、自分の手の冷たさがよくわかった。

「……君が、朝、アイスを食べる時。何かに嫌気が差している時だ。違うかい?」

わたしはその言葉を受け止めて、肯定も否定もしなかった。
そうだったかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

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