テキストサイズ

おにぎり短編集

第1章 あいす

しかし、記憶を遡ると、ある一点に辿り着く。
辿らなくても、容易に行き着いた。

忘却の彼方に捨て去りたかった記憶。
昨日の飲み会で言われたことを、新鮮なままに思い出して、反吐が出そうだった。

「若くて綺麗で、貰われるうちに結婚しておけ」

飲み会の席。この上なく余計なお世話なことを、酔ったクソ上司に言われ、挙句、正座していたわたしの太ももに手が伸びてきた。

常時から、わたしはこの上司を好まない。
女だからと馬鹿にしてくる節があって、その割にはセクハラ紛いのことをしてくる。左手の薬指にリングが嵌められているのを見て、顔も名前も知らない奥さんに、酷く同情した。

腹が立って、その手をピシャリと叩き落として、瞬時に距離を取った。

酔っていたら何をしても良いと思うな。

睨みつけると気分を害した上司は分かりやすく、わたしを目の敵にするような言葉をつらつらと並べた。

その言葉の、どれもこれも、覚えていない。覚えていなくてよかった。

それほどまでに、気持ちの悪い上司に「若くて綺麗」と思われ、性的な目で見られていること、その嫌悪感のインパクトが強すぎた。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ