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そして愛へ

第1章 そして愛へ

 そして愛へ

        双葉 如人


         1


 きょうは、二〇十五年九月三十日の水曜日です。
 わたし、進さんにまだ返事をしていません。進さんに、いいですと返事をするのが恥ずかしいのです。
 わたしは、十九才の大学一年生ですので、これから卒業までの三年半を、長時間のアルバイトをしながら勉強しなくてはならないことや、三百万円もの奨学金の返済のことを考えると、進さんのお話を受け入れようと思っています。
 進さんが優しいのは、試しの期間の一ヶ月を二人でいっしょに暮らして、はっきりわかりました。毎日の食事もほんとに美味しかったです。食後の片付けもしなくていいから、わたしのために用意してくれている部屋で勉強してくださいと言ってくれました。そのほかの家事もしなくていいと言ってくれました。洗濯だけは、下着などもあるから自分でしたほうがいいでしょうと言ってくれます。二十万円も渡してくれましたので、一ヶ月アルバイトをしなくていいというのは、学生にとっては嬉しかったです。
 進さんと顔をあわせるのは、朝食のときと夕食のときがほとんどです。土曜日や日曜日などにわたしが出かけないときは、もちろん昼食も作ってくれましたが、そのほかはときどきお茶にしませんかと言ってくれるくらいでした。
 食事のときに、わたしの大学での話を聞いてくれたり、進さんの豊富な知識を基にしたいろいろなことを話してくれるのです。でも、進さんのお願いのことは、話題にしませんでした。わたしの気持ちの負担にならないようにと思ってくれたのでしょう。
 進さんと話すと笑うことが多くて、とっても楽しいです。いつも、もう大学に行く時間ですよとか、そろそろ勉強しませんかと言ってもらうまで話してしまうのです。進さんはほんとに優しくて、楽しくて快適な毎日でした。

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