小中大テキストサイズ

官能マシン

第1章 官能マシン

 信一はテーブルの上に置いた携帯電話を見つめた。

 そろそろ帰ろうか。

 そう思った、その時だった。

「ごめんなさい。待った?」

 突然、すぐ脇から声を掛けられた。

 信一は驚いて顔を上げた。

 そこに立っていた女を見た瞬間――

 信一は息をのんだ。

 目の前にいたのは、三十年前の妻、純子だった。

「遅れてごめんなさい。やっぱり待っててくれたのね、信一」

 純子はそう言って、笑顔で信一の向かいの席に腰を下ろした。

 信一は、目の前にいる若い純子の顔を見つめたまま、言葉を失った。

「純子……どうしたんだ? 若返ってるじゃないか」

 信一が真剣な顔で言うものだから、純子はクスクスと笑った。

「私、どう? ずいぶん変わったでしょう?」

「ああ、きれいだよ。それにしても、一体どうしたんだ?」

「ふふっ。これから楽しいことをしましょう」

 信一は純子に誘われるまま、すぐ近所のラブホテルへ入った。

 何もかもが不思議だった。

 目の前にいる女は、話し方も仕草も、どう見ても三十年前の純子そのものだった。

 だが、あの頃の純子は、うぶで恥ずかしがり屋だった。自分からラブホテルへ行こうなどと言う女性ではなかった。

 それなのに、信一は戸惑いながらも、なぜかその女を純子として受け入れていた。

 まるで本当に、三十年前の純子と一緒にいるようだった。

「どう、信。気持ちよかった?」

「ああ……。一体どうしたんだ? こんなに情熱的な純子は初めてだったから、びっくりしたよ」

「ふふふ。よかったわ。また会いましょうね」

 純子はさっさと服を着ると、投げキッスをして部屋を出ていった。

「やっぱり人違いなのかな……。でも、あれは確かに純子だった」

 信一は一人、ベッドの中で考え込んでいた。

 そのときだった。

 携帯電話を取り出してみると、電源が入らない。

「なんだ? さっきまで使えていたのに……」

 信一は何度も電源を入れようとしたが、携帯電話はまったく反応しなかった。

 仕方なく自宅へ戻ると、妻の純子は寝室のベッドで気持ちよさそうに眠っていた。

「やっぱり……違うのかな?」

 信一は小さくつぶやいた。

 翌日、信一は会社を終えると、電気店へまっしぐらに向かった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ