―短冊に託したプロポーズ―
第1章 ―短冊に託したプロポーズ―
*
自転車を全力でこぎ、でも、交通ルールはきちんと守りつつ、やっとの思いで保育園に到着。
駐輪もそこそこに、敷地内に入る。と、
「あっ、おかぁーさぁーんっ!」
外でお友達と遊具でハシャイでいた『息子』が、私を見つけるなり、満面の笑みを向けて走り寄ってくる。その無邪気な姿を見ただけで、夕方までかかってしまったデスクワークの疲れが、一瞬で全部吹っ飛んじゃった。
「流星(りゅうせい)、お待たせー。遅くなってごめんね。
そーら、よいしょーっ!」
お詫びに高々と抱えてあげたら、流星は楽しそうに「キャー」と声をあげる。
あぁ、やっぱり自分の子供が一番可愛い。着ている水色の通園服も、誰よりもよく似合っている。……てなことを、飽きずに毎日思う、親バカな私。
少しだけじゃれ合ってから、流星に帰り支度を調えてきてもらう。再び私の元に戻ってくると、
「おかあさん。みてみてー」
「……わぁー。コレ、流星が作ったの?」
「うんっ」
小さな手で誇らしげに握っていたのは、数十センチ程度の背の低い笹だった。折り紙で作られた星や花や、カラフルな輪飾りなどで、笹が可愛く彩られている。
「すごーい。とても上手に出来てるねー」
「えへへー」
そうかぁ……。今年も、もうすぐ七夕の日を迎えるんだ。
――そばにいた裕一がいなくなってから、今年で五回目の七夕……か。
「……ねぇねぇ、おかあさん」
「ん、なぁに?」
「ぼくのささ……『おそらにいる おとうさん』にも、みえてるのかなぁ?」
「っ……」
「ぼくのささがみえてたら、おとうさん、よろこんでくれるかなぁ?」
純真な流星を見ていたいのに、目に覆われた涙が邪魔をする。
流星の中で――写真でしか会ったことがない裕一の存在が、ちゃんと『お父さん』であることが……こんなにも嬉しくて、泣けてくる。
「……当たり前じゃない。お父さん、お空で流星の笹を見て、大喜びしてるよ!」
「ホントに? わぁーいっ!」
バンザイしてハシャグ流星を、強く抱きしめた。流星の笹が、私の溢れ出た涙をそうっと拭うように、頬をかすめた。