先輩!彼氏にしてください!
第5章 彼氏までの道のり ─ 序 ─
「うん、とりあえず…泣かないで」
そっと、先輩が僕の頬に触れる。
そして、拭いきれなかった涙を先輩は親指で拭った。
「……だから、泣いてな────」
目を瞑ったほのか先輩が、そのかわいい顔をゆっくりと僕に近付けている。
何が起こったのか理解したときには、ほのか先輩はもう僕の唇から唇を離して、再び椅子の方へと戻ってしまっていた。
「……───────」
「勘違いしないでよ。ちょっと悪いことしたかなって思ったのと…」
くるりと振り返った先輩は頬を紅らめながら、椅子に腰掛け、本を手に取る。
「…………減るもんじゃないから……しただけ」
「先輩…っ………」
先輩から、キスされた……?
やばい……
嬉しくて……幸せで…っ
「時間もったいないから早く始めてよ」
すかした風にしながらも、ちょっと照れている先輩が可愛すぎる。
えんぴつを握りながら、キャンバスに頭をつけた僕は、「あぁぁぁ………」と思わず唸った。
「先輩……好きです……っ」
「………知ってる」
「本当に、体が…バラバラになりそうなほど……好きで好きで堪らないです……」
「バラバラ……? こわ」
チラと先輩のことを見るけど、先輩は本を読んでいてこちらを見ていない。
「ほのか先輩…あの…もう一回キス ───」
「─────描かないなら私帰るよ」
途端に冷たくなった先輩に、はぁ…とため息を吐く。
彼氏にしてもらえるにはまだ時間がかかるかもしれないけど……
でも、着実に前に進んでいるハズ。
そう信じて、僕はえんぴつを再び握った。