先輩!彼氏にしてください!
第7章 天才の苦悩
話が見えてきた私は、谷川くんに抱きしめられながら、フッと力を抜いた。
こっちこそ『そんなこと』かよ…
私をモデルに描いた時点でそんなの当たり前なのに……
「あの絵を見てみんなが『すごい』って思うのは、描かれているモデルじゃなくて、描いた人だよ」
「……違います」
頭をふりながら、谷川くんはさらに私の事を強く抱きしめる。
「そもそもモデルが輝いていないと、絵だって輝きません」
そうだろうか。
さっき見た絵の『安藤ほのか』は、私自身よりも強く輝いて見えたけど。
それを谷川くんに伝えたところで『そんなわけありません!』と言ってくるのが目に見えて黙り込んだ。
「先輩を不特定多数の目に晒したくありません」
「……じゃあなんでそもそも私をモデルにしたの」
絵の出来がどうであれ、私をモデルにすれば私の姿は不特定多数に晒される事になると思うけど。
「それは……」
もごもごと口籠った谷川くんは、私から体を離すと私の両肩に手を置いたまま項垂れていた。
「ちょっとでも、ほのか先輩と2人きりになれるなら…って……」
「………………」
「絵が出来た後のことは…正直あんまり考えてなかったというか…」
………ほんと…呆れた。
「せっかく時間作ってあげたのに。絵を出さないなら、私としてはモデルをした時間、無駄になっちゃうんだけど」
そう言って谷川くんを揺さぶると、案の定谷川くんは顔を上げ泣きそうな顔をしながら「うぅ…」と唸った。