ぼんやりお姉さんと狼少年
第23章 秘湯での秘話
いつしか相槌さえも打たなくなり、私は黙って耳を傾けていた。
何と言っていいのか分からなかったからだ。
彼女の方こそ、病気で苦しむ息子の顔など見たくなかったろう。
しかも自分の伴侶が亡くなったばかりで、きっと色んな思いもあった中で。
そんな風に相手の心情を思い巡らしながら、湯舟から上がり床に足を着けると、ふとこちらに視線が向けられている事に気付いた。
「お前はなんというか、攻撃的な体をしているなあ」
「私はお母様の様に鍛えていませんが……」
「そういう意味ではない」
これなら息子が骨抜きにもなるわけだ。言い淀んでいる私に、再びハハハッと豪快に笑い飛ばしながら温泉をあとにする。
そういう彼女は普通の大きさのタオルで充分体がすっぽりと隠れていた。
ずるい。
それから僅かに私から視線を逸らし、伏し目がちに朱璃様が言った。
「そういえば真弥、私の名は朱璃(あかり)だ。 琥牙の伴侶といえど私はお前の母ではないし、御母堂に申し訳ない」
***
その歓迎会、と呼ばれるものもまた若干カオスだった。
いくら見慣れているとはいえ。
朱璃様が私と二ノ宮叔父甥コンビを紹介したあと、広間では口々に言葉が交わされていた。
「人の姿の者が増えるのは良い事なのでしょうが、やはり少しばかり違和感も感じます」
「外からの仲間が増えるのは、もう何年振りだろうねえ。 だが琥牙様と雪牙様も認めているならば問題無いのだろ」
現在ぎゅうぎゅうにここの住人が集まっているここでは、私たちの他はみな狼である。